男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子

29、エール国フォルス王③

「父上、アンジュ王子が困っています。そこまでにしてもらえませんか?」

ジルコンは口角を引き下げ、抱き締めて放そうとしないフォルス王から、窒息寸前のロゼリアを引き離した。
フォルス王は息子の不機嫌ぶりを満足げに目を細めて眺め、楽しんでいる様子を隠そうとしない。

「あんな、こんまい子供が10年ぶりに再会して、こんなに美しく立派に育っていて、嬉しかったものでな!
この子はベルゼに目元が似ているが、若かりし頃のセーラに本当に良く似ている!
実はな、よろしく息子を勉強させてくれとセーラに言われている。このエールで遠慮なくいくらでも滞在し、息子に付き合ってやってくれ。
息子の新たな試みのスクールで、半端ものたちと半端なりに、存分に学ぶといいい!
人が集まればいろんな知恵が出て森の王国よりかは学べるだろう!何か不自由があればなんでもいってくれ!アンジュ王子!あなたを心から歓迎する!できる限りのことはしよう!」

わっはっはっはっと王は豪傑らしく豪快に笑う。
ジルコンにはない、あっけらかんさである。
嫌味でさえも、からっと揚げた鶏肉のようである。
そしてウインクをロゼリアに寄越すと、ふたたび男たちの輪に入っていったのであった。

それで謁見は終わりだった。
ジルコンは強い目をして、議論に加わる父王を見る。
意識が完全に自分たちから離れたことを確認する。

「気に入られたな。まずは第一関門は突破した」

ジルコンは小さくため息をついた。
その気持ちがロゼリアにもよく分かる。
身体が重い。
騎士たちにしごかれた時に勝るとも劣らないぐらいの疲労感である。

あれが覇王の迫力だった。
ジルコンはロゼリアについてこいととも言わず先を歩きだす。
その横顔はアデールで再会した時を彷彿とさせる厳しさに引き締まっていた。

ロゼリアはジルコンの父王を、さすが森と平野の覇王だな、などと月並みなことを言おうとして思いとどまった。

半端ものたちの新たなスクールと称したフォルス王は、ジルコンの取組を馬鹿にしているし、たいして期待もしていないのだろう。
多くの大人たちもそう思っているのだろう。

だからこそ、ジルコンは成功させ実りあるものにしたいと思っているのだ。
ジルコンにとって、父親はどんな存在なんだろうかとロゼリアは思ったのである。



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