男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
43、球投げ勝負 ③
野外の講習は男子だけである。
審判役にジルコンの騎士たちが付く。
屋外の修練場へ行く。
日はさんさんと照り付ける午後である。
既に真ん中を線で区切られた四角い枠がひかれていた。
皆、上着を脱ぎシャツ姿となった。
ロサンがルールを説明している。
このボール遊びは森と平野の国々では子供の頃によく遊ばれる遊びである。
エールではそれが競技まで高められ、洗練されていた。
それは、主にパジャン側の者たちへの説明であるが、アデールとエールではルールに微細な違いがあるようである。
頭や顔を狙ってはいけないこと。
5秒以上、球を持ち続けてはいけないこと。
陣地の内側の内野同士や外野同士のパスはだめだということ。
当てられても、チームの誰かが受け止めればセーフだということ。
当てられた内野は外野に行かなければならないこと。
外野は相手を当てないと戻れないこと。
5分の勝負の後に、内野に残っている数の多い方が勝ちだということ。
パジャンの若者たちは、恐ろしいほど真剣に聞いている。
「、、、以上だが、何か質問はあるか?」
ロサンが訊く。
「玉に触れさせて欲しい。素材は革か?」
ロサンが質問の主のラシャールに投げると、ラシャールは地面に球をバンバンと叩きつけてその弾む感触と固さを確かめた。
遠くにいたパジャン側の茶色の髪の若者に投げる。
彼は手のひらで受けてまわすようにして受け止めた。
その彼は別の者に大きなモーションで投げている。
パジャン側は一通り感触を確かめた。
「これをぶつけ合うだけの遊びなんて単純だな」
ラシャールのいつもそばにいる、アリジャンが言う。
彼は切れ上がった目元に太眉毛が印象的な顔立ちの若者である。
アリジャンは、球を地面に強くたたきつけ、バンドさせてラシャールに戻す。
片手でつかんでラシャールは受け止めた。
それだけで運動神経の良さがわかってしまうのであった。
ヒューとエール側から彼らの独特の、見慣れない動きと慣れた球扱いに感嘆が漏れるが、エールの者たちの目は全く笑っていない。
この球投げ勝負が、エール対パジャンの代理戦とパジャンは理解しているし、ジルコンたちエール側も、彼らの遊びで負けるつもりはないのである。
「アンさま、やせられたのでは?」
ジルコンの内野の隅に入っているロゼリアに声を掛けたのは、外野の外に審判の一人として立つジルである。
6人ほどの騎士たちが来ていて、ロゼリアと視線が合うと、孤高の黒騎士に似合わない笑顔をロゼリアだけに見せてくれていた。
それを見るとロゼリアは涙が出そうになった。
そんな自分をひとりの仲間として優しい顔を見せてくれるのは久々だったのだ。
アヤは生憎この野外講習には参加していないようである。
「もしかして、夏スクールはかなり大変なのですか?大丈夫ですか?」
なおもジルは聞いてくれる。
ジルコンの黒騎士たちは始めはロゼリアを腫物を扱うような態度だった。
その状況は二時間に渡るぶっ通しの剣術試合により変わった。
ロゼリアは身体を動かすことは好きである。
いまのエール側のノルたちから半ば無視されるような冷たい態度も、この試合を頑張れば見直してくれるかもしれないと願わずに入られない。
ウォラスも言っていたではないか。
ロゼリアから働きかければ波乱を引き起こすかもしれないが、現状は打破できると。
同じチームの一員としてこの玉投げ試合をロゼリアも共に一生懸命戦えば、彼らも認めてくれるのではないかと思う。
球を使った遊びはロゼリアも親しんだものである。
革で作っているところもエール国と違わない。
エール国では競技まで高められているところが、子供の遊び止まりのアデールとは異なるが、要は当てられないようにすればいいのだ。
勝負は内野に残っている人数が多い方が勝ちなのだ。
アデールでは最後のひとりを倒すまで続くのだが。
だから。
「大丈夫。真剣に取り組んでいれば、あの時のように変化が起こるはずだから」
ジルに聞こえるように言う。
ロゼリアの言葉にジルはかすかに眉をよせた。
エール側の王子たちの誰も、ロゼリアに話しかけようとしない。
ウォラスが軽く声を掛けたぐらいである。
ロゼリアはエール側の王子たちに馬鹿にされ仲間外れにされている。
そんなことは少し見ていれば、黒騎士たちにもすぐにわかるだろう。
彼らはそんな状況のロゼリアを見て、情けなく思うに違いなかった。
ロゼリアは唇を引き締めぎゅっと拳を握りしめた。
ボールが投げられ、試合は始まる。
パジャン側が投げたボールはバルトに吸い込まれるようにして受け止められた。
バルトは真ん中の仕切り線に駆け寄る勢いを球に込め、後ろに下がり遅れた一人を狙う。
狙われた若者は腹で受けようとするが、球の威力に負け後ろに倒れ込んだ。
審判役にジルコンの騎士たちが付く。
屋外の修練場へ行く。
日はさんさんと照り付ける午後である。
既に真ん中を線で区切られた四角い枠がひかれていた。
皆、上着を脱ぎシャツ姿となった。
ロサンがルールを説明している。
このボール遊びは森と平野の国々では子供の頃によく遊ばれる遊びである。
エールではそれが競技まで高められ、洗練されていた。
それは、主にパジャン側の者たちへの説明であるが、アデールとエールではルールに微細な違いがあるようである。
頭や顔を狙ってはいけないこと。
5秒以上、球を持ち続けてはいけないこと。
陣地の内側の内野同士や外野同士のパスはだめだということ。
当てられても、チームの誰かが受け止めればセーフだということ。
当てられた内野は外野に行かなければならないこと。
外野は相手を当てないと戻れないこと。
5分の勝負の後に、内野に残っている数の多い方が勝ちだということ。
パジャンの若者たちは、恐ろしいほど真剣に聞いている。
「、、、以上だが、何か質問はあるか?」
ロサンが訊く。
「玉に触れさせて欲しい。素材は革か?」
ロサンが質問の主のラシャールに投げると、ラシャールは地面に球をバンバンと叩きつけてその弾む感触と固さを確かめた。
遠くにいたパジャン側の茶色の髪の若者に投げる。
彼は手のひらで受けてまわすようにして受け止めた。
その彼は別の者に大きなモーションで投げている。
パジャン側は一通り感触を確かめた。
「これをぶつけ合うだけの遊びなんて単純だな」
ラシャールのいつもそばにいる、アリジャンが言う。
彼は切れ上がった目元に太眉毛が印象的な顔立ちの若者である。
アリジャンは、球を地面に強くたたきつけ、バンドさせてラシャールに戻す。
片手でつかんでラシャールは受け止めた。
それだけで運動神経の良さがわかってしまうのであった。
ヒューとエール側から彼らの独特の、見慣れない動きと慣れた球扱いに感嘆が漏れるが、エールの者たちの目は全く笑っていない。
この球投げ勝負が、エール対パジャンの代理戦とパジャンは理解しているし、ジルコンたちエール側も、彼らの遊びで負けるつもりはないのである。
「アンさま、やせられたのでは?」
ジルコンの内野の隅に入っているロゼリアに声を掛けたのは、外野の外に審判の一人として立つジルである。
6人ほどの騎士たちが来ていて、ロゼリアと視線が合うと、孤高の黒騎士に似合わない笑顔をロゼリアだけに見せてくれていた。
それを見るとロゼリアは涙が出そうになった。
そんな自分をひとりの仲間として優しい顔を見せてくれるのは久々だったのだ。
アヤは生憎この野外講習には参加していないようである。
「もしかして、夏スクールはかなり大変なのですか?大丈夫ですか?」
なおもジルは聞いてくれる。
ジルコンの黒騎士たちは始めはロゼリアを腫物を扱うような態度だった。
その状況は二時間に渡るぶっ通しの剣術試合により変わった。
ロゼリアは身体を動かすことは好きである。
いまのエール側のノルたちから半ば無視されるような冷たい態度も、この試合を頑張れば見直してくれるかもしれないと願わずに入られない。
ウォラスも言っていたではないか。
ロゼリアから働きかければ波乱を引き起こすかもしれないが、現状は打破できると。
同じチームの一員としてこの玉投げ試合をロゼリアも共に一生懸命戦えば、彼らも認めてくれるのではないかと思う。
球を使った遊びはロゼリアも親しんだものである。
革で作っているところもエール国と違わない。
エール国では競技まで高められているところが、子供の遊び止まりのアデールとは異なるが、要は当てられないようにすればいいのだ。
勝負は内野に残っている人数が多い方が勝ちなのだ。
アデールでは最後のひとりを倒すまで続くのだが。
だから。
「大丈夫。真剣に取り組んでいれば、あの時のように変化が起こるはずだから」
ジルに聞こえるように言う。
ロゼリアの言葉にジルはかすかに眉をよせた。
エール側の王子たちの誰も、ロゼリアに話しかけようとしない。
ウォラスが軽く声を掛けたぐらいである。
ロゼリアはエール側の王子たちに馬鹿にされ仲間外れにされている。
そんなことは少し見ていれば、黒騎士たちにもすぐにわかるだろう。
彼らはそんな状況のロゼリアを見て、情けなく思うに違いなかった。
ロゼリアは唇を引き締めぎゅっと拳を握りしめた。
ボールが投げられ、試合は始まる。
パジャン側が投げたボールはバルトに吸い込まれるようにして受け止められた。
バルトは真ん中の仕切り線に駆け寄る勢いを球に込め、後ろに下がり遅れた一人を狙う。
狙われた若者は腹で受けようとするが、球の威力に負け後ろに倒れ込んだ。