男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
45、エリン国のベラ ④
そこには、肩からかけた白いシルクのショールに赤い飛沫を転々と付けたジルコンの妹姫、ジュリアがいた。
突然の出来事で大きな目を見開き、ジュリアは絶句である。
悲鳴をあげたのは、そのジュリアの横にいる娘。
その娘はジュリアの髪型をまねて、茶色の髪をくるくると巻いている。
彼女は赤い汁を頬に受けていた。
血の涙のように頬に垂れていた。
だが自分の頬にかかったことよりも、ジュリアの白いシルクの赤い汚れに悲鳴を上げたのである。
「も、申し訳ございませんっ、ジュリアさま」
慌ててベラは立ちあがり、必死で頭を下げた。
がたんと不作法にも椅子が鳴るが、構っている余裕はベラにはなかった。
「汚したものはお預かりして何とか綺麗にしてお返しますから、、」
ベラのジュースの被害を受けなかった娘の一人が後ろから前にでて目を吊り上げベラを睨んだ。
「フルーツの赤い染みなんて取れないわよ、ジュリアさまのショールに何てことしてくれたの!」
「べ、弁償してお返しいたします、、、」
「ふざけないで!これはベテランの職人の手によるものよ!シルクといえば黄ばんだものしかしらないエリンみたいな貧乏国の姫に、弁償できるものではないわよ!真っ白で美しいのに、あんたの粗相のせいで台無しだわ!」
厳しい物言いである。
ベラは大きな体を小さくして、半泣きで、すみません、すみません、と謝り続ける。
食堂中の注目を集めていた。
こんな注目のされ方に、恥辱でベラは真っ赤になり半泣きになった。
泣いて謝れば許してもらえるのならば、人目をはばからずベラは大声で泣いていただろう。
だが、彼女たちはそんなことでは許してくれるとは思えなかった。
この夏スクールの間中に、ねちねちとベラをいじめる口実を彼女たちに与えてしまったのだ。
ジュリアはするりとショールを脱いだ。
「まあ」
と小さくひとつ驚いた。
出会いがしらの衝撃はもうジュリアは立ち直っている。
彼女の友人たちが怒っていると対象的に、ジュリアは落ち着いている。
「白いショールはいずれ汚れるものですし、どんなに高価なものだとしても身に付けるものは消耗品です。
こんなにはっきりと赤くついてしまったら、落とすのは難しいのかもしれませんね。ではベラさん、責任をもってこれを処分してもらえますか?」
と、ベラににこりと微笑し、シルクのショールを手渡した。
ベラはまさかのおとがめなしに、ショールを握りしめ、涙を堪えて震えている。
食堂の全員がその成り行きを、息を詰めて見ていた。
ロゼリアもジュリアの言動に魅入ってしまう。
ジュリアはロゼリアよりも年下ではなかったか。
ほれぼれする度量の深い女王さまぶりである。
ジュリアが引きつれる娘の一人が、突然ロゼリアに矛先を向けた。
「あなたは、ベラのご友人のアデールの君?彼女と一緒にいると品が落ちるから、こんな娘を相手にしない方がいいわよ?」
意地悪な物言いである。
「わたしは気にしてないから、あなたたちももういいのよ。蒸し返さないで頂戴」
女王さまは取り巻きをたしなめ、引き連れて去っていく。
取り巻きとジュリアの女力の違いは歴然だった。
それに、ベラ対他の姫たちの。
「大丈夫?本当に災難だったね。ジュリアもそう言ってくれていることだし。終わったことなんだから気にしないで、席で途中だった食事を食べ終えてしまおう。べ、ベラ?」
ロゼリアは立ち尽くしたままのベラの、そのふっくらした肩に手を置いた。
ベラは恥ずかしさと悔しさに、辺りをはばからずロゼリアにしがみつき、汚れてしまったショールを握ったまま声をあげて、泣いたのだった。
突然の出来事で大きな目を見開き、ジュリアは絶句である。
悲鳴をあげたのは、そのジュリアの横にいる娘。
その娘はジュリアの髪型をまねて、茶色の髪をくるくると巻いている。
彼女は赤い汁を頬に受けていた。
血の涙のように頬に垂れていた。
だが自分の頬にかかったことよりも、ジュリアの白いシルクの赤い汚れに悲鳴を上げたのである。
「も、申し訳ございませんっ、ジュリアさま」
慌ててベラは立ちあがり、必死で頭を下げた。
がたんと不作法にも椅子が鳴るが、構っている余裕はベラにはなかった。
「汚したものはお預かりして何とか綺麗にしてお返しますから、、」
ベラのジュースの被害を受けなかった娘の一人が後ろから前にでて目を吊り上げベラを睨んだ。
「フルーツの赤い染みなんて取れないわよ、ジュリアさまのショールに何てことしてくれたの!」
「べ、弁償してお返しいたします、、、」
「ふざけないで!これはベテランの職人の手によるものよ!シルクといえば黄ばんだものしかしらないエリンみたいな貧乏国の姫に、弁償できるものではないわよ!真っ白で美しいのに、あんたの粗相のせいで台無しだわ!」
厳しい物言いである。
ベラは大きな体を小さくして、半泣きで、すみません、すみません、と謝り続ける。
食堂中の注目を集めていた。
こんな注目のされ方に、恥辱でベラは真っ赤になり半泣きになった。
泣いて謝れば許してもらえるのならば、人目をはばからずベラは大声で泣いていただろう。
だが、彼女たちはそんなことでは許してくれるとは思えなかった。
この夏スクールの間中に、ねちねちとベラをいじめる口実を彼女たちに与えてしまったのだ。
ジュリアはするりとショールを脱いだ。
「まあ」
と小さくひとつ驚いた。
出会いがしらの衝撃はもうジュリアは立ち直っている。
彼女の友人たちが怒っていると対象的に、ジュリアは落ち着いている。
「白いショールはいずれ汚れるものですし、どんなに高価なものだとしても身に付けるものは消耗品です。
こんなにはっきりと赤くついてしまったら、落とすのは難しいのかもしれませんね。ではベラさん、責任をもってこれを処分してもらえますか?」
と、ベラににこりと微笑し、シルクのショールを手渡した。
ベラはまさかのおとがめなしに、ショールを握りしめ、涙を堪えて震えている。
食堂の全員がその成り行きを、息を詰めて見ていた。
ロゼリアもジュリアの言動に魅入ってしまう。
ジュリアはロゼリアよりも年下ではなかったか。
ほれぼれする度量の深い女王さまぶりである。
ジュリアが引きつれる娘の一人が、突然ロゼリアに矛先を向けた。
「あなたは、ベラのご友人のアデールの君?彼女と一緒にいると品が落ちるから、こんな娘を相手にしない方がいいわよ?」
意地悪な物言いである。
「わたしは気にしてないから、あなたたちももういいのよ。蒸し返さないで頂戴」
女王さまは取り巻きをたしなめ、引き連れて去っていく。
取り巻きとジュリアの女力の違いは歴然だった。
それに、ベラ対他の姫たちの。
「大丈夫?本当に災難だったね。ジュリアもそう言ってくれていることだし。終わったことなんだから気にしないで、席で途中だった食事を食べ終えてしまおう。べ、ベラ?」
ロゼリアは立ち尽くしたままのベラの、そのふっくらした肩に手を置いた。
ベラは恥ずかしさと悔しさに、辺りをはばからずロゼリアにしがみつき、汚れてしまったショールを握ったまま声をあげて、泣いたのだった。