男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
47、朝練 ①
夏期スクールの寮の近くには広いグランドがある。
先日、球投げ競技を行ったところであり、練習用の武器類の倉庫や、射的場も近接し、エールの巨木の森もすぐそこに迫る。
その森の木陰には大きな馬小屋もあり、今回夏スクールに参加している各国王子たちの馬やロゼリアの愛馬も、エール国の馬番たちが世話をしてくれている。王子の中には授業の後に馬小屋に入り浸る者たちもいる。
ロゼリアもたまに様子を見にいっている。
ベラの決死の体術訓練依頼が食堂で行われた翌朝、ロゼリアは木立の日陰になるグランドの石垣に一人で腰をかけていた。
普段着よりもさらに質素な、汚れてもいい身軽な格好である。
ベラが遅れるようなら久々に馬の様子を見に行こうか、と思っていたところベラが早足で駆けつけた。
「遅くなりましてすみません!」
自分から言い出したのにも関わらず、ロゼリアより遅かったのが申し訳ないようだった。
ぜえぜえ、と既に息が上がって顔が真っ白だった。
パジャン風の、二つに分かれ膨らんだパンツをはいている。
女子は基本外で運動する講座はない。
あっても室内ダンス程度である。
だから、ベラも動きやすい服装をよくよく考えて、パジャンの娘たちがたまにはいているその分かれたパンツを選んだようである。
「わたしも今来たところだから気にしないで!さあ、はじめようか」
ベラの呼吸が落ち着いたところで、ロゼリアとベラはペアでの準備体操を行う。
使うのはグランドの端の木陰である。
まだ日が昇っていないとはいえ、ベラは日焼けを嫌がると思ったのだ。
ロゼリアは全く気にしていないが、女子と一緒ならば気を配る。
それは、フラウに、女子の恰好をしている時に日の下にいるならば日差しを遮る傘をさしてくださいと、さんざん叱られ、お願いされていたのである。
あの、炎天下での球投げ競技に参加していたことなどもってのほかだろう。
「体固いね。っていうか、固すぎない!?」
ロゼリアは前屈でベラの背中を押すが、ベラの背中は90度以上前屈できない。
肉がじゃまするとかそういう以前の問題である。
はじめは間近に向かい合って手を取っていたのをどぎまぎとしていたベラだったが、ときめきを味わうのは初めだけで、すぐさまこれ以上辛いことはないというほど悲愴な悲鳴を上げることになる。
「い、痛いです!アンさんっ!これ以上無理ですっ!曲がりませんから!!」
「、、、嘘だろ、ベラ。朝起きたてであるということを考慮しても、これは、体術以前の問題のような気がしてきたよ、、、」
「すみませんっ。今日から頑張りますからっ。だからこれ以上無理です。ほ、骨が折れますって!」
「花の乙女がそれって、どうなの?っていうか女子たちは皆、コレ、、、?」
「いえ、違うと思います。わたしだけですから、多分」
「ベラは、自分の体がコレでいいの?」
太っていることよりも、固いことにたいしてロゼリアは許せないようである。
「だからここに朝早起きしているんです!わかってもらえましたか!」
「誇らしげに言うことでもないと思うよ、、、」
花の乙女が体ががちがちというのは色気がないような気がする。
だからこそ、一緒にロゼリアが付き合ってくれるのであれば、苦手な運動もできるかもしれないという気持になったのであろう。
「やる気は、、、」
「満々ですから!」
このふくよかな女子のやる気は本物のようである。
覚悟を決めるのはロゼリアの方だった。
ロゼリアは呻く。
「う~ん。コレだと、いきなり組み合ったらベラが怪我をする。当分体の準備が整うまで柔軟体操とジョギングかな?」
「ジョギング、、」
その響きに、ベラはたじろいだ。
だが、やる気満々といった手前すぐには嫌だとは言えない。
「いやなの?ならあなたとの朝練もコレで終わりだよ?僕が走るのを見学でもしていてね」
そして、ベラは初日の朝、グランド4周、約2キロほどをぜえぜえと巨体をゆすりながら走ることになったのだった。
ロゼリアは始めの一周はベラについて走る。
二周目からは這うように走るベラを置いていく。
ゆっくりだとじれったくてしょうがない。
ロゼリアの身体の中には、少し前のベラではないけれど、鬱屈した行き場のない不満があった。
ジルコンと話すこともあるが、ジルコンの友人たちは相変わらずロゼリアを頑なに拒んでいる。
もうスクールが始まって三週間はたつが、友人と呼べる者はこのベラ以外にいないのだ。
男装をしているのだから、男子の友人が欲しいと思う。
エール側であろうとパジャン側であろうと、ロゼリアは構わない。
ジルコンもラシャールも、表立って対立することはない。
将来の友好な森と平野の国々と、草原と岩場の国々をつなげるための、期待のこめられた若者たちの集まりであるのにも関わらず、パジャン側はこのスクールに参加してやっているのだという態度を崩さない。
彼らから歩み寄ることはない。
パジャンは用心している。
パジャン側の王子たちがだまし討ちにあうこともあるのだ。
そうなると、有無を言わさず全面戦争となるだろう。
アデール以外はどちらかに属している。
先日、球投げ競技を行ったところであり、練習用の武器類の倉庫や、射的場も近接し、エールの巨木の森もすぐそこに迫る。
その森の木陰には大きな馬小屋もあり、今回夏スクールに参加している各国王子たちの馬やロゼリアの愛馬も、エール国の馬番たちが世話をしてくれている。王子の中には授業の後に馬小屋に入り浸る者たちもいる。
ロゼリアもたまに様子を見にいっている。
ベラの決死の体術訓練依頼が食堂で行われた翌朝、ロゼリアは木立の日陰になるグランドの石垣に一人で腰をかけていた。
普段着よりもさらに質素な、汚れてもいい身軽な格好である。
ベラが遅れるようなら久々に馬の様子を見に行こうか、と思っていたところベラが早足で駆けつけた。
「遅くなりましてすみません!」
自分から言い出したのにも関わらず、ロゼリアより遅かったのが申し訳ないようだった。
ぜえぜえ、と既に息が上がって顔が真っ白だった。
パジャン風の、二つに分かれ膨らんだパンツをはいている。
女子は基本外で運動する講座はない。
あっても室内ダンス程度である。
だから、ベラも動きやすい服装をよくよく考えて、パジャンの娘たちがたまにはいているその分かれたパンツを選んだようである。
「わたしも今来たところだから気にしないで!さあ、はじめようか」
ベラの呼吸が落ち着いたところで、ロゼリアとベラはペアでの準備体操を行う。
使うのはグランドの端の木陰である。
まだ日が昇っていないとはいえ、ベラは日焼けを嫌がると思ったのだ。
ロゼリアは全く気にしていないが、女子と一緒ならば気を配る。
それは、フラウに、女子の恰好をしている時に日の下にいるならば日差しを遮る傘をさしてくださいと、さんざん叱られ、お願いされていたのである。
あの、炎天下での球投げ競技に参加していたことなどもってのほかだろう。
「体固いね。っていうか、固すぎない!?」
ロゼリアは前屈でベラの背中を押すが、ベラの背中は90度以上前屈できない。
肉がじゃまするとかそういう以前の問題である。
はじめは間近に向かい合って手を取っていたのをどぎまぎとしていたベラだったが、ときめきを味わうのは初めだけで、すぐさまこれ以上辛いことはないというほど悲愴な悲鳴を上げることになる。
「い、痛いです!アンさんっ!これ以上無理ですっ!曲がりませんから!!」
「、、、嘘だろ、ベラ。朝起きたてであるということを考慮しても、これは、体術以前の問題のような気がしてきたよ、、、」
「すみませんっ。今日から頑張りますからっ。だからこれ以上無理です。ほ、骨が折れますって!」
「花の乙女がそれって、どうなの?っていうか女子たちは皆、コレ、、、?」
「いえ、違うと思います。わたしだけですから、多分」
「ベラは、自分の体がコレでいいの?」
太っていることよりも、固いことにたいしてロゼリアは許せないようである。
「だからここに朝早起きしているんです!わかってもらえましたか!」
「誇らしげに言うことでもないと思うよ、、、」
花の乙女が体ががちがちというのは色気がないような気がする。
だからこそ、一緒にロゼリアが付き合ってくれるのであれば、苦手な運動もできるかもしれないという気持になったのであろう。
「やる気は、、、」
「満々ですから!」
このふくよかな女子のやる気は本物のようである。
覚悟を決めるのはロゼリアの方だった。
ロゼリアは呻く。
「う~ん。コレだと、いきなり組み合ったらベラが怪我をする。当分体の準備が整うまで柔軟体操とジョギングかな?」
「ジョギング、、」
その響きに、ベラはたじろいだ。
だが、やる気満々といった手前すぐには嫌だとは言えない。
「いやなの?ならあなたとの朝練もコレで終わりだよ?僕が走るのを見学でもしていてね」
そして、ベラは初日の朝、グランド4周、約2キロほどをぜえぜえと巨体をゆすりながら走ることになったのだった。
ロゼリアは始めの一周はベラについて走る。
二周目からは這うように走るベラを置いていく。
ゆっくりだとじれったくてしょうがない。
ロゼリアの身体の中には、少し前のベラではないけれど、鬱屈した行き場のない不満があった。
ジルコンと話すこともあるが、ジルコンの友人たちは相変わらずロゼリアを頑なに拒んでいる。
もうスクールが始まって三週間はたつが、友人と呼べる者はこのベラ以外にいないのだ。
男装をしているのだから、男子の友人が欲しいと思う。
エール側であろうとパジャン側であろうと、ロゼリアは構わない。
ジルコンもラシャールも、表立って対立することはない。
将来の友好な森と平野の国々と、草原と岩場の国々をつなげるための、期待のこめられた若者たちの集まりであるのにも関わらず、パジャン側はこのスクールに参加してやっているのだという態度を崩さない。
彼らから歩み寄ることはない。
パジャンは用心している。
パジャン側の王子たちがだまし討ちにあうこともあるのだ。
そうなると、有無を言わさず全面戦争となるだろう。
アデール以外はどちらかに属している。