春の始まりに、もう一度君に会いに行く。
びっくりして前を見ると、田川君が立っていた。

「やっぱりそうだよね!佐々木さん…だっけ?」

「うん…。田川君だよね?」


田川君の笑顔がまぶしくて、直視できず、目をそらしながら答えた。



「佐々木さんどこの中学校出身なの?」

「東中出身だよ」

「あ、俺北中だから家近いかも!最寄りの駅となりだし」

「そうなんだ」



なんで、私になんか話しかけてくれるんだろう…。

田川君は、他の人と違って負の感情が感じられないから、話しやすいけど少し怖いとも感じる。




二人で一緒に電車を降り、通学路を歩く。

「ねえ、佐々木さん」

「何?」

「佐々木さんの下の名前ってなんていうの?」

「ゆめ」


何で下の名前なんか聞いてくるんだろう、この人…。




「漢字でどうやって書くの?」

「優しい芽」


私は自分の名前が嫌いだった。


私には似合わないし、名前負けをしていると感じているからだ。




「へぇ、佐々木さんっぽくていい名前だね」



私っぽい名前だなんて初めて言われた。


嬉しいけど、私はそう思えないから複雑な感情になった。


「そうかな…、そんなこと初めて言われた」


「俺なんか、夏に生まれたから海人だよ」


「いいじゃん、季節感あって」


私は海が好きだから、海って感じが入っているのが羨ましいけど…。



「えー、俺の中学時代のあだ名なんて”うみんちゅ”だよ」



海人…。


確かに”うみんちゅ”って読むことが出来るなぁ。


沖縄で売ってるTシャツを思い出して、思わず笑ってしまった。


「お、佐々木さんが笑ってる姿初めて見た」


そう言われて、久しぶりに笑ったような気がした。



「ごめん、私人見知りだし愛想悪く思ったでしょ…」


そんな私に対して、田川君は否定をしないでくれた。



「ううん、クールな感じの人なんだろうなって思ってた!雰囲気大人っぽいし」



この人はきっと優しい人なんだろうなぁと強く感じた。
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