新妻の条件~独占欲を煽られたCEOの極上プロポーズ~
2.女性らしくマナーレッスン
 いつもと違う寝心地にハッとして、勢いよく体を起こす。信じられないくらいふかふかのベッドで私は寝ていた。

 太陽はすっかり真上にあるようで、明るい日差しが部屋に降り注いでいる。

 眉根を寄せ、自分の状況を数秒考えてからベッド下の床へ視線を向けた。

 家の主が去ってから、おじいちゃんの気持ちを考えて寂しい気持ちになりながらも時差ボケのせいか眠くなって、床にゴロンと寝っ転がったのだ。夕食の時刻まで眠るつもりで。

 私にとってベッドは清潔な聖域で、シャワーを浴びて綺麗にしてから入るのが習慣になっていたせいだ。

 しかし、硬い床では寝心地が悪く、ベッドの枕もとに数個あったクッションのひとつを枕にさせてもらった。

 覚えているのはそこまでで、どうしてベッドで眠っているのかまったく記憶にない。

 この状況では、寝心地のよさを求めて夢遊病者のように自らベッドに行ったとしか思えない。

「はぁ~」

 重いため息をひとつ漏らしてから、今が何時なのか気になり部屋の壁にかけられた時計を見ると午前十一時だった。

 そのとき、ふと瑛斗さんの声が思い出された。

『仕方ないな。ゆっくり寝ろよ』

 でも、私の妄想だよね。

 実際に瑛斗さんが部屋に入ってきたとは思えない。夕食に現れなければ、寝ているものと思うだろう。やっぱり最初に考えた〝寝心地が悪くて移動した説〟は払拭できない。

 初日から夕食をすっぽかすという失敗をしてしまい、両手で顔を覆う。それからビシッと顔を上げて立ち上がると、部屋の隅に置かれたままのキャリーケースを開けて着替えを取り出す。

 そこでまた私の動きが止まる。

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