新妻の条件~独占欲を煽られたCEOの極上プロポーズ~
 そうだ。Tシャツ三枚とデニムを一本しか入れてこなかった。下着だって二組しかない。二ヵ月滞在するのに……。

 どこかで買わなきゃ。とりあえず、シャワーを浴びよう。

 着替えを持って部屋にあるバスルームへ向かう。手前に金と大理石の豪華な洗面所があり、真鍮の装飾が美しい卵形の鏡に映る自分を見てギョッとした。見事に髪の毛があちこち跳ねまくっていたのだ。結んでいたはずの黒ゴムがない。

 すでに十一時を回っている今は見あたらない黒ゴムにかまっていられず、私はバスルームに飛び込んだ。


 水色のTシャツとデニムに着替え、濡れた髪の毛を水滴だけ取って部屋を出たのはそれから三十分後だった。

 リビングへ行くと誰もおらず、その場に突っ立ってキョロキョロ見渡してみる。

 するとそこへ昨日の年配の女性が現れ、ジェスチャーと片言の英語でテラスの方へ行くよう私を促す。ニコッとした彼女はすぐにどこかへ引っ込んでいった。

 テラスに家の主がいるの?

 大きく開け放たれた窓の向こう側にあるテラスへ歩を進めてみる。

 そこはリビングと同じくらいの面積で、三十畳はあるだろうか。やはり大きなソファやテーブルがあり、海が眺められるおしゃれな空間だった。

 そこのソファに、脚を投げ出してタブレットを見ている瑛斗さんを見つけた。

 瑛斗さんはすぐに私に気づいて体を起こした。

「おはよう」
「おはようございます。寝坊してしまってすみません」

 昨日、約束したのに夕食に行けなかったことを謝る。

「疲れていたんだろう。時差ボケもあるし。しかし、紅里は正体なく眠るんだな。起こしてもまったく目を覚さないから心配になったよ」
「すみません……えっ!?」

 彼は部屋に入ってきたのだ。

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