新妻の条件~独占欲を煽られたCEOの極上プロポーズ~
 年配の女性がシャンパンの瓶と前菜を運んできた。そこで瑛斗さんに彼女を正式に紹介される。

 家政婦のコレットさん。朝六時半から十六時までこのアパルトマンにおり、ニースから電車で通勤している。子どもふたりはパリの大学に通っているそうだ。ご主人は瑛斗さんの牧場で働いているということだった。

 コレットさんがこの場を去ると、瑛斗さんは瓶の栓を手際よく開けて細長いグラスに金色の液体を注ぐ。

「シャンパーニュだ。日本だとシャンパンだな。アルコールは飲める?」
「はい」

 二十歳になってから、おじいちゃんや佐野っちゃん、牧場のみんなと頻繁に飲んでいるおかげか慣れて、泥酔したことはない。

 シャンパーニュなんて飲んだ記憶がないけれど、とてもおいしそうに見える。

「いただきます」

 私はグラスの真ん中を持って喉に流し込んだ。キリッと冷えた辛口の液体が喉を通り、豊潤な葡萄の香りが鼻から抜ける。

「その持ち方ではシャンパーニュに手の温度が伝わりぬるくなる。グラスはこうやってステムの部分を持つんだ」

 瑛斗さんはグラスの脚を持って優雅に口へ運ぶ。

 好きなように飲めないって、面倒くさいんですけど……。

「なんだ? 不満か?」
「い、いいえ。こうですね」

 彼と同じようにステム部分を持った瞬間、下の方すぎたのか、グラスがぐらりと揺れて倒れそうになった。急いでもう片方の手で押さえてなんとか難を逃れる。

「大丈夫か? それほど難しいことではないが」

 私の慌てた姿がよほどおもしろかったのか、彼は口もとに拳をあてて笑いをこらえていた。

「こ、こんなグラスなんて初めて持ったんですから!」
「すぐに慣れるさ。前菜を食べて。ここは魚介がうまいんだ」

 美しいお皿の上に少量ずつ盛られた五種類もの前菜を勧められ、言われるままに口へ運ぶ。昨日チョコレートケーキを食べて以来だから、おなかが鳴りそうなくらい空いていた。

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