新妻の条件~独占欲を煽られたCEOの極上プロポーズ~
 丸パンに手を伸ばしそのままかじりつこうとすると、瑛斗さんから待ったがかかる。

「パンはひと口にちぎって食べるんだ」
「あの、そうやって観察されていてはおいしさも半減してしまいます」
「君はマナーや所作を教えてもらうためにここにいるんだ。ちゃんと学ぶように」

 厳しい声でたしなめられ、返す言葉がなくガックリとうなだれた。

「……お仕事はいいんですか?」
「今日は土曜日で、週末は休日だよ」
「年齢と、職業を詳しく聞いてもいいですか?」

 瑛斗さんは私の周りにはいないタイプで、どうしてこんなにセレブな生活を送れるのか気になった。

「三十二だ。仕事は、世界中に展開している宝飾店のCEO。不動産投資や株もしているし、もちろん馬主でもある」
「世界中に展開している宝飾店……?」
「そう。『ジルベルド』っていう店は? 知らないよな」

 聞いておきながら、自分で答えを言う瑛斗さんだ。

「もちろん知りません。宝飾品には興味ありませんし」

 私のつっけんどんな物言いに瑛斗さんは怒りを見せるどころか、楽しそうに口もとを緩める。

「ジルベルドはもともと父親が銀座にオープンさせたんだが、俺が二十五のときに父親が急死してね。跡を継いで、さらに巨大な事業へと発展させた」

「はぁ……」

 巨大事業というからには、私には到底想像ができない規模の仕事ばかりでさぞ忙しいのだろうな。

「あ、今日雪丸に会いに行ってもいいですか? 最寄りの駅を教えてください」

 瑛斗さんは続いて出てきたステーキを切っていた手を止める。

「君は話の脈絡をぶったぎる天才だな」
「そんなことないですけど……」

 興味がない話になるとよく話を変えるよね?と、渚に言われたのを思い出した。

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