新妻の条件~独占欲を煽られたCEOの極上プロポーズ~
「ちゃんとまとめないから、もつれちゃってる!」

 生まれつきブラウンの髪はやわらかいうえにくせ毛でもあるから、風に吹かれたり、馬に乗ったりしたときにはくしゃくしゃになってしまう。

「絡んだくらいで死なないって。あ、いたたたっ、渚、痛いって」

 渚の指に髪が引っかかって、頭皮に痛みが走る。

「ちょっと動かないで。逃げるから余計に引っ張られるんでしょ。私みたいに三つ編みにすれば絡まないのに」

 あきれた声を出して、渚は私の髪から手をはずす。
 
 彼女の髪も私と同じくらいの長さがあるが、黒髪の直毛でだいたいうしろで一本の三つ編みにしている。

「そんなの面倒だし」

 彼女は十二月生まれで、元日に生まれた私とは八日ほどしか違わない。一番近いお隣さんで、一緒に育ってきた。

 私の両親が十三年前に交通事故で亡くなってしまってからは、とくにお世話になっていた。ひとり息子夫婦に先立たれ、牧場の仕事で忙しいおじいちゃんだけでは十歳の私の面倒を見るのが大変だったから。

 私は持たされた籠の中へ視線を落とす。

「アスパラ! やわらかそう。いつもより早い収穫じゃない?」

 濃い緑色に惹かれ一本手にすると、上の部分をかじる。

「ああっ、紅里! 洗っていないよっ」
「大丈夫、大丈夫! うん、甘くておいしいよ」

 あきれる渚に、私はアスパラガスをポリポリかじりながらニコッと笑う。

「もう……いつも食べてばかりなのに、どうして太らないのか不思議よ。私なんて食べたらすぐに身につくのに」

 渚は自分のおなかを見下ろしてから、苦笑いを浮かべる。

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