御曹司は箱入り娘を初夜に暴く~お見合いしたら、溺愛が始まりました~
並んで歩きだすと、人混みの中でも透さんは目立っていた。
お洒落をしてきてよかった。これは誰がどう見てもデート。この状況で「連れている女ダサくない?」なんて噂をされたらさすがの私も悲しくて歩けなかっただろう。

「はぐれちゃうよ沙穂ちゃん。こっちおいで」

考え事をしながらフラフラ歩いていたからか、透さんの手がふわりと背中に添えられた。

「は、はいっ」

シャキンと背筋が伸びる。いやらしさのない爽やかな触れ方なのに、私がまた勝手に意識をしている。

偽装とはいえ、恋人の距離って近い。

彼の手は見方によっては私を抱き寄せているともとれる。背中から肩にかけての神経が研ぎ澄まされ、ドキドキが収まらない。
百メートル歩いただけでもう過呼吸になりそうだ。

「なにか食べようか」

出店を眺めながら、透さんが提案してきた。お腹がすいていた私は正直にうなずく。

しかし実は、出店で食べ物を買った経験はほとんどない。
透さんは御曹司といえど大学時代は普通の学生生活をしていて、一方私は最後までお嬢様学校だった。姉と違ってサークル活動もしていなかったから、遊びの経験値がすこぶる低い。
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