御曹司は箱入り娘を初夜に暴く~お見合いしたら、溺愛が始まりました~
会話が一度途切れたため続きが気になったが、透さんはもう話す気がないようだ。

「ご家族に心配かけるから、今日は終わりにしようか」

「はい。……あの、さっきなにか」

「うん。また今度にする」

落ち着いた表情に戻り、操作で助手席の鍵を開けてくれた。
これで本当に解散、だ。

さみしい気持ちを抑えながら、幸せを噛み締めるように紅茶のプレゼントを抱え、ドアに手を掛けた。

「沙穂ちゃん」

もう一度名前を呼ばれ、「はい」と返事をしながら体の向きを彼へと戻すと。
ふわりと頭に手を添えられ、前髪になにかを押しあてられる。視界は一瞬だけ透さんの胸でいっぱいになった。

「……え」

キス、された?

頭が真っ白になる。前髪を押さえながら呆然としていると、姿勢を戻した透さんが霞んだ笑顔で「またね」とつぶやいていた。

別れの挨拶に従ってぼんやりと車から降り、口を半開きにしたまま門の前に立った。

「家の中に入って。確認してから帰るから」

「……はい」

反抗せず操り人形のごとく言葉通りに動き、門の中へ、庭の奥へ、玄関の前へと進み、そこで最後に彼の車に向かって一礼してから、家の中へ入った。

しばらくしてエンジンの音が聞こえてきて、彼の車の気配も消える。

さっきの……キス、だったよね。
私は夢を見ているの?
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