御曹司は箱入り娘を初夜に暴く~お見合いしたら、溺愛が始まりました~
「……美味いな」

クッキーを一枚口に入れ、そうもらした。
甘いのかと思ったがスパイスの効いたトリッキーな味がする。こういうの好きだ。
そういえば、彼女はお菓子作りが趣味だったな。

それはいつ聞いた話だっけとふと考え、俺はソファを立ち、仕事用のノートパソコンが置かれたデスクへ近寄った。

ブラウンの木目の、中央の引き出しを開ける。そこにはA4サイズの黒いファイルだけが入っており、それを手にとり、開いた。

三十ページほどあるクリアポケットにびっしりとファイリングしているのは、季節の柄の便箋と、封筒。

大学時代、沙穂ちゃんからもらった手紙だ。


◇◇◇


七年前。

東帝大学、三年次。俺は毎日忙しく、一方で退屈だった。

幼い頃から厳しい教育を受け、二つ上の兄と競わされる毎日を送ってきた。三鷹ツアーズを継ぐにふさわしいのはどちらだ、と。

真面目が取り柄だった俺は、兄に負けじと期待に応え、うちの家系では当然だとばかりに推され、兄と同じ東帝大に入学した。

大学に入ってから判明したのが、ここまで競わせておきながら、どんなに努力をしたところで最初から次男に継承権はないという事実。これまで俺がさせられていたのは兄を鼓舞する役目だった。

なら俺の今までの人生はなんだったんだ。
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