御曹司は箱入り娘を初夜に暴く~お見合いしたら、溺愛が始まりました~
彼女のこのミスでやはり手紙を書いていたのは沙穂ちゃんだったと分かり、盛り上がる心が抑えきれなくなった。

だから感情のままに、告白めいた一文を送った。

【手紙で伝わるか自信がないけど、実は、きみのことがすごく気になっている。迷惑かな】

この手紙の後、美砂を通じ、なんとやりとりを辞めたい旨を伝えられた。
ショックだった。本当に返事が来なくなり、頭が真っ白になった。

手紙をやめたいというのは誰の気持ちだったのだろう。俺は勝手に美砂の向こうの沙穂ちゃん自身とやりとりをした気になっていたが、彼女は違ったのでは。
最初から最後まで、美砂に徹していた。

美砂はいつもと変わらない。俺の告白についてまったく知らない様子で、彼女は隠し事ができる子ではないから本当に沙穂ちゃんからなにも聞いていないのだろう。

沙穂ちゃんは、俺をなかったことにしようとしている。


◇◇◇


昔の沙穂ちゃんを思い出しながら、何度目か分からない最後の手紙を再読した。
口の中には、クッキーのスパイスの味がじんわりと残る。

今の俺があるのは沙穂ちゃんのおかげだ。なかば自分の人生をあきらめていたのに、三鷹ツアーズに囚われずに生きようと決断できたのは彼女の言葉に感化されたから。

いつの間にか夢中になっていた俺は、ファイルごと手紙を持ってソファへ戻った。

沈むようにうなだれ、細く息を吐く。
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