御曹司は箱入り娘を初夜に暴く~お見合いしたら、溺愛が始まりました~
張りつめた空気に震えていると、ソファがギシッと音を立て、池畠さんが立ち上がった。

「驚いたなぁ。沙穂さん、婚約したんだね」

やだ……来ないで……。

「は、はい……」

池畠さんは案の定、こちらへ近寄ってくる。

ワックスでガチガチに固められた襟足の長いオールバックに、ストライプのスーツ、先のとんがった革靴。三十四歳には見えない威圧感のある風格で、そばに寄られるとツンと香水の匂いがする。

私が震えて動けないのをいいことに、彼は耳もとに顔を寄せ、囁いてくる。

「それで俺から逃げられると思った?」

ゾッと身震いし、たちまち背筋が冷たくなった。
一歩後退りをするが、彼はさらに詰めてくる。

「美砂とはちゃんと結婚するけど、やっぱりきみの方が好みなんだよねぇ。婚約者がいても同じ。バレなきゃいいんだから、俺は逃がさないよ」

本当に、嫌だ……! どうしてこの人が美砂の婚約者なんだろう。

「やめてください……」

蛇のように髪に絡みつく指を制し、か細い声で反抗してはみるものの、まったく相手には響かない。
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