御曹司は箱入り娘を初夜に暴く~お見合いしたら、溺愛が始まりました~
違和感を覚えたままホテルへと向かい、車を預けて中へ入った。ここでも父がついてくる。

照り返るほど磨かれた大理石のメインエントランスに私たちが一歩足を踏み入れると、支配人とホテルマンたちが揃って出迎えた。
この歓迎が恥ずかしくて、私はプライベートではオトワホテルを使わない。

美砂はロビーを見渡すと「あ!」と声をあげ、柱の向こうのアンティークソファに駆け寄っていく。

私は足が動かず視線だけでそれを追う。そこにいるのは、おそらくーー。

「こんにちは。お世話になっております、乙羽社長。本日はよろしくお願いします」

ーー透さんだ。
彼はまず顔を合わせた姉に短く手で挨拶をし、次に顔を出した父に対しては立ち上がって丁寧なお辞儀をする。
姉と父が彼を挟み、三人で談笑を始めた。

私は想像以上に緊張し、柱の裏に隠れて彼の前に出ていくことすらできない。
タイミングを失った。もっと冷静でいられると思ったんだけど。こうなったらもう私抜きでやってほしい。

「あの。沙穂ちゃんは?」

〝沙穂ちゃん〟

昔、透さんから何度か聞いた呼び方。
今も変わらずそう呼んだ彼の声を無視できず、私は観念して柱の裏から一歩前へ。

「お久しぶりです。透さん」
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