御曹司は箱入り娘を初夜に暴く~お見合いしたら、溺愛が始まりました~
ちらっと池畠さんを盗み見て、嫌な気分になりながらも考えを巡らせた。

オーナーが私のような女性を連れて来店したら、シェフやウェイターさんは「お連れ様はどなた?」と尋ねるものではないだろうか。それがまったくない。
皆して黙り込み、触れもしないなんて。もしかして、この人はいつも女性を連れて来店しているのでは?

「王子様との生活はどうだい?」

こちらからの疑いの視線をかわし、彼は見つめ返してきた。

「三鷹さんです。そんなふうに呼ばないでください」

「少し美砂から聞いたよ。学生時代に縁のあった彼なんだってね。ずいぶん大物に唾をつけてたんだな」

ひどい言い方!
腹が立ったが、完全な相手のテリトリーで声をあげるのは躊躇われる。

「お嬢様が昔から憧れていた彼か。相手も見たところ、苦労ひとつせず育ってきたお坊ちゃんだね。お似合いだ」

「やめてください」

軽々しく語らないでほしい。この人に透さんのなにが分かるっていうの。日々努力して今の地位を築いた彼が、苦労していないなんて誰も決めつける権利はない。
少なくとも、私は彼の苦労を知っている。
< 97 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop