妖の木漏れ日カフェ
「んっ…………」

 目を開けると、どこか森のような場所にいることが分かった。

 でも、さっきまで私がいた田舎の空気とは何かが違って、胸の奥がざわつく。

「えっと、私、井戸に吸い込まれそうになって、いや、吸い込まれて、それで、えっと…………」

 体を起こして辺りを見渡して知っている風景を探そうとするも、やっぱり見覚えはなくどんどんと不安の渦が大きくなっていく。

 一体ここは、どこなのだろう。人もいないし、あるのは自然ばかりでだんだんと恐怖まで感じてくる。

「誰かっ、いますか」

 せめて誰かがいればと思って叫んでみても、返事はない。

「ここ、本当にどこなんだろう……」

 不安と恐怖が大きくなりすぎて、目頭が熱くなってくる。いきなり井戸に吸い込まれて、知らないところに来てしまって、どうすればいいのかも分からない。

 帰りたい。

 お爺ちゃんやお母さんやお父さんに会いたい。

 その時、木の向こうからがさがさと音がした。誰かいるのかも、と期待をしつつ、もし熊とか猪とか危険な動物だったらどうしようという考えも浮かんできて、さらに不安が募る。

「だ、誰ですか?」

 声は聞こえないけれどだんだんと音は近付いてきて、私はぎゅっと目を瞑った。
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