君が描いたあの絵を僕は忘れない。
絶対に2人で夢を叶えよう。

そしてあの大きな美術館で2人の絵を飾ろう。



花が咲く季節の到来を知らせる風が吹き、
桜の蕾が顔を出した頃。


中学を卒業した遥菜は、新しい高校へ向けての準備をしていた。


鞄に高校の教科書やノートを詰め終わった後、入れるはずだった大きなキャンパスを棚の奥にしまい込んだ。


私達の夢は終わってしまった。


遥菜はそう思っていた。


元々、都会の高校へ行く予定だったのだ。


しかし実際に行く高校は全く違う。


山奥にぼやっとした古びた高校がぽつんとある。


青々とした自然が高校を取り囲み、鳥たちの囀りが聞こえてくる。


そんな様子だった。


大きなため息をつき、スケッチ用紙を手に取る。


「お母さん、私ちょっとお見舞いに行ってくる。ずっと家にいると鬱病になっちゃいそう。」


「そう?なら気をつけてね。
あまり気にしちゃ駄目よ。精神的にも悪いわよ。」


下り行きの電車に乗り込む。


最初はそれなりに人が乗っていたものの、奥へ下ると人が全く居なくなった。


日差しが顔へ照りつける。


遥菜は何も考えずただぼーっと座っていた。


田んぼが過ぎ、山奥に入る。


そして、何も無い無人駅に着いた。


本来の背景画を描く画家なら、ここなら思う存分綺麗な景色が書けると思うのだろう。


しかし、今の遥菜はそんなことは思いもしなかった。


ここにはほとんど何も無い。


あるとすれば、
やけに大きい大病院くらいだ。


その病院には幼なじみの拓磨が入院している。
拓真とは古くからの絵描き仲間で、ずっと同じ絵画教室に通っている。


2人はそれなりに仲が良かったため、いつも一緒にいた。


拓真を見ると、過去にあったあの光景がフラッシュバックする。

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