お見合い回避のために彼氏が必要なんです
仕事
 翌日、私はいつも通り、出勤する。

 私の勤める会社は、小さなシステム開発の会社で、専ら大手の下請け業務を行なっている。大手の意向には逆えず、あり得ない納期で仕事を回され、SE(システムエンジニア)として働く私は、残業漬けの毎日だ。


はぁ……

今日、何度目かのため息が出る。でも、これは残業疲れで出てるわけじゃない。昨日の母の電話を思い出すと、つい、ため息がこぼれるのだ。


田代(たしろ)、どうした、さっきから」

そう声を掛けてきたのは、たまたま後ろを通りかかった笠原 真(かさはら まこと)部長。この会社の創業メンバーの1人の彼は、まだ33歳の若い部長さん。爽やかな好青年と言っても通りそうな風貌をしている。

「部長、聞いてくださいよ〜」

私は、昨日の母との会話を愚痴と共に吐き出す。

「もう、どうすればいいんでしょう? どうしようもないんですけど」

「ははっ」

明るく笑った部長は、私の頭をくしゃりと撫でる。

「俺がやってやろうか? 田代の彼氏役」

部長は、まるで「缶コーヒーをおごる」とでもいうくらい、軽く言う。

「んーーー!」

私は言葉にならない声を上げて、首も右手も目一杯、振る。

「滅相もございません! 部長にそんなことはさせられませんから!」

「くくっ
 滅相もって……
 今、田代に辞められたら困るからな。
 それくらい、なんでもないのに」

部長は相変わらず笑ってるけど、そんなの無理に決まってる。

「部長の手をわずらわせるくらいなら、いっそ光太郎(こうたろう)でも連れて行きますから」

私がそう言うと、斜め前に座る同期の宮本 光太郎(みやもと こうたろう)が顔を上げた。

「はぁ⁉︎ ふざけんなよ。なんで俺が!」

不満げに口を尖らせる。

「部長と違って、あんたなら、暇でしょ?」

私がそう言うと、

「バカ! 俺は、マミちゃんといろいろあるから、忙しいんだよ」

と、ぶーたれる。マミちゃんというのは、光太郎が最近ハマってるオンラインゲーム上で知り合った顔も本名も何も知らない、“ゲーム上では”かわいい女の子らしい。

「ふん! そんなのどうせネカマよ」

私がそう言うと、光太郎は一瞬鼻白んだが、

「そんなことねぇよ!」

と根拠のない反論をする。
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