悪魔の契約書
「戻して……戻してくれーい!」
鬼若宅を飛び出し
ただ走りながらZは叫んだ
「こんなはずじゃなかっただやー
鬼さんは金持ちじゃなかっただかー……はぁはぁ」
『ふっ、浅はかな男よのう』
「……!!」
先程契約を交わした悪魔が目の前に現れた
『よく考えて決めないからこうなる』
「……あっ……あんたが時間がないとか急かしたんやないか!5秒前カウントダウンまでして!!」
『誰も5秒で決めろとは言ってないが?』
「えっ…………!?」
『あれは単に私の口癖だがな』
「そそ、そんな……」
『さーてお気に召さなかったようだな
ではこれ以上その姿は必要ないな。約束通り貴様の最も恐れる死に方でその命貰おう』
「うう……」
『ふふ……』
悪魔はZを見つめ
心の中を読んでいるようだった
『……んん?』
「はぁはぁ……」
『ふむぅ……そもそも死を恐れていないようだな』
「わ……ワイは……雪音クリスや猫被りどもの言う通り
生きててもしょうがないんや
何のために生きてるかわからない人生やったんや……」
『……そうか……』
意外にも同情的なため息をつき
悪魔は
ゆっくりとZのほうへ手を伸ばした
『特例だ。
お前にとって最も幸せな死に方で魂を奪ってやろう』
「え……」
『その前に姿を戻すぞ』
瞬く間にZは元のブ男に戻った。
「……」
『来い』
悪魔はZを連れ
煙のように消えた
「はうあ!」
目が覚めるとZは暗闇にいた。
(まだ生きて……る……?)
だが異常に窮屈で身体が痛い。
瞬時に凄まじい悪臭と寒さに襲われる
「う……ああああ……?」
青ざめながら僅かに明るい頭上を見上げると
あたたかい水のようなものが降ってきた。
【おわり】