夜空に見るは灰色の瞳

「すみません。ちっともよろしくありません。私、かなり急いでるんです」


数秒の間を空けて我に返るなりそう答え、何のために戻ってきたのかもすっかり忘れて踵を返す。
けれどその背中に


「いいんですか?鍵、閉め忘れていますよ」


そんな声がかけられて、次いでガチャっとドアの開く音が聞こえた。
慌てて振り返ると、開かれたドアの向こうに男の姿が見えなくなる。


「えっ……あっ、ちょっと!!」


一瞬思考が停止したが、すぐさま我に返って駆け出す。

ドアが閉まる寸前でドアノブを掴んで引くと、「お邪魔します」と吞気に挨拶をしながら、律義に揃えて靴を脱いだ男が廊下を進んでいくのが見えた。


「なに勝手に……!」


急いで中に入って放り投げるようにして靴を脱ぐと、廊下を進んだ先にある部屋へと入っていく男の背中を追いかける。

私が部屋に駆け込むと、そこで男はようやく足を止めてこちらを振り返った。
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