夜空に見るは灰色の瞳
「ところで叶井さん、先ほどから何をそんなに怒っているのですか?」

「……いや、別に怒ってませんけど」

「とてもそうは見えませんよ。さっきまでと違って、妙に距離も感じますし」

「距離感は大事だと思います」

「それにしたって突然過ぎませんか?あっ、実はフライパンの使い勝手がよくなかったとかですか?」


万が一それが理由で怒っているとしたら、私はどれだけ心が狭いんだ。


「そういえば、マットレスも欲しいって言っていましたよね。実は、一番欲しいのはフライパンではなくそっちだった?」


それで怒っているのだとしたら、私は子供ではないか。


「別に怒ってないって言ってるじゃないですか。これが、本来は適切な距離感であると気付いただけです」


男は、大変納得いかなそうな顔をしている。
まあそれもそうだろう。素っ気なく冷たい言い方は、誰がどう見ても怒っている。
もしくは、怒っていなかったとしてもすこぶる機嫌が悪いようにしか見えない。

実際はそのどちらでもないというか、スッピンや下着の件で気付いた心の緩みを、引き締めているだけだ。

まあ、いつまで引き締めたままでいられるかはわからないけれど。案外またすぐ戻ってしまうような気がしている。
何しろこの男、思わず強い言葉で突っ込みを入れたくなるようなことばかりやらかすのだ。
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