夜空に見るは灰色の瞳
うっかりして聞き忘れたが、置いて行ったということは、くれるということでいいのだろうか。それとも、回収するのを忘れただけだろうか。
無理やり鏡に押し込んでしまったので、後者でもあり得る。

考えながら近付いていって、改めて手に取って観察する。

見た目はただのフライパン、お店で買った物となんら変わりはない。
使い勝手ももちろん同じで、今のところは溶けたり消えたり白いもやもやに戻ったりもしない。
ここから更に時間が経てば、どうなるかはわからないけれど。

何にしろ、もしも貰っていいとしたら、思わぬ形で以前から欲していた物が手に入ってしまったことになる。

欲しいと言った物を出してくれて、疲れているとみるや癒しをくれる――そこだけ切り取ればただのいい人だけれど、その正体が魔法使いとくれば、“ただのいい人”では終わらせられないだろう。

とりあえず考えていてもしょうがないので、フライパンを水切りカゴに戻し、抱えていた服を脱衣所にある洗濯機に放り込んで、予定通り洗濯を始める。

ゴウンゴウンと洗濯機が稼働し始めたところでくるっと向きを変えると、袖を捲りつつ浴室へと続くすりガラスのドアを開けた。
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