夜空に見るは灰色の瞳
男の注文に、大路くんはわざとらしいほど申し訳なさそうな表情を浮かべた。
表情を作っていますというのが、ありありとわかるような感じだ。


「すみませんね、茶碗蒸しは叶井に出した物で最後でして」


笑顔なのに目がちっとも笑っていないのと同じで、申し訳ないという気持ちがちっとも目にはこもっていない大路くん。

どうも男が来店してから、大路くんの様子がおかしいように感じるのは気のせいだろうか。
訝しむ私の隣で、男の方も不思議そうな顔で大路くんを見つめている。


「……叶井さん、大路くんから敵意のようなものを感じるのですが、なぜでしょう」

「……いや、知らないけど」


スッと身を寄せ、小声で話しかけてくる男に、私も小声で返す。

大路くんといえば、営業部時代から誰とでもすぐに仲良くなれて、誰にでも好かれる傾向にある男なのだが、そんな彼が誰かに敵意を向けているなんて、大変珍しいというか、初めて見た。


「それで、注文はどうされるんですか?それともやっぱり冷やかしですか?でしたら、お出口はあちらですよ」
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