夜空に見るは灰色の瞳
「遠慮しなくてもいいですよ。お好きでしょ?」

「叶井、食べたいなら新しいの焼いてやる」


男が言い終わるか終わらないかの微妙なところで、大路くんが言い放つ。
妙に力が入っているのは何なんだろう。さっきから、一体どうしたというのだろう。


「えっと……今日はいいや。茶碗蒸しの気分だし。それより、お茶のおかわりが欲しいかな」

「待ってろ。すぐ淹れる」

「あっ、じゃあ僕にもください」

「どうぞ、“お冷”です」


私のためにお茶を用意しつつ、男の前には水の入ったコップを置く大路くん。

自分の前に置かれた水を見つめてから顔を上げた男は、不思議そうな顔で大路くんを見て、そのままの表情で私の方を向いて、こてっと首を傾げた。

悪いが、そんな仕草をされたところで私にもよくわからないので、何も答えられない。

美味しい物を食べて明日への活力にするはずだったのに、そのついでに大路くんに愚痴を聞いてもらったりするつもりでもあったのに、癒しのために訪れたはずの場所で、なぜだか私は更に疲労を蓄積させることになってしまった。

こんなことなら、真っすぐ家に帰った方がマシだったかもしれない。





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