夜空に見るは灰色の瞳
三永ちゃんが居なくなってしばらくしたところで


「なあ、叶井」


水でも飲もうかとグラスを掴んだタイミングで、大路くんに呼ばれた。

なに?と大路くんの方を向いたら、彼はジッとテーブルを見つめていて、ちっともこちらを見ていない。


「……ちょっと大路くん、私に話しかけてるの?それともテーブルに話しかけてるの?」

「ああ、悪い……。えっと、テーブルじゃない方の叶井に話しかけてる」


“テーブルじゃない方”ってなんだ。私はそもそもテーブルではない。


「……変な顔して変なこと言ってどうしたの?変な物でも食べたの?」

「これは真面目な顔だ」


真面目な顔をして変なことを言う方が、重症度が高い気がする。


「何でもいいけど、何なの?呼んだのに何も言わないっていうのはどういうこと」

「ちょっと待て急かすな」


どういうことだ、声をかけたのはそっちだろう。
でも仕方がないので、とりあえず黙って待つことにする。

大路くんは、またしばらくジッとテーブルを見つめていたけれど、やがて決心したのか、または観念したのか、ようやく私の方を見た。

目が合って、またしばし沈黙して、大路くんは口を開く。
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