夜空に見るは灰色の瞳
「ちなみに、どこで働いてるの?」


何気ないその問いかけに返ってきた答えは、思わず目が点になるような大企業の名前で、実際私の目は点になっていたような気がするし、作業する手も止まった。


「……まさか、そんないい所にお勤めの方だったなんて」

「何で急にかしこまるんですか?」

「……あまりに予想外の大企業でつい」

「社名は確かに有名ですけど、僕自体は普通の平社員ですよ。特別エリートでもないですし、今のところ肩書がつく予定もありません」


それでも、やはり有名所で働いているというのは大きいだろう。
これは、大路くんとはまた違った意味で女性に人気がありそうだなと思った。


「有名所で働いているってだけでチヤホヤされても、ちっとも嬉しくありませんけどね。それって、僕がどうこうって言うより、社名とか、もっとハッキリ言うと給料に惹かれているってことでしょう?」

「……まあ、そう言えなくもないかもね」


でもその言い方だと、どうやら実際にチヤホヤされたことはあるらしい。
まあこの男の場合、社名の力もあるだろうけれど、おそらくその整った顔立ちによってチヤホヤされている面もあるだろう。

ひとまず、驚きによって思わず止めてしまった手を動かして、夕飯作りを再開する。

今日のメインは、鮭のつみれ汁。それだけで汁物としてもおかずとしてもいただけるよう、つみれはたっぷりめに入れる予定だ。
< 172 / 263 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop