夜空に見るは灰色の瞳
「凄いね……ほんとに売り物みたい」

「祖父が喜びます。ジャムとバターもありますから、好きに使ってください」


そう言って男は、カゴの隅に手を入れて、ジャムとバターが入った瓶を取り出す。


「……まさかとは思うけど」

「どちらも祖父の手作りですよ。ジャムはイチゴですね。おそらく、祖父が育てたイチゴだと思います」


暇を持て余してパン作りを始めるとこんなことになるのか。最早、暇潰しなんてレベルではない。


「昔から凝り性なんですよね。始めると極めたくなるみたいで」


男がまた台所に向かって手を伸ばすと、今度はバターナイフが穏やかな速度で飛んで来る。


「僕はとりあえずロールパンにしますけど、叶井さんはどうしますか?」

「んー……じゃあ私は、クロワッサン」

「ジャムかバターは?」

「最初はこのまま食べたいからいい」


お互いに一つずつパンを手に取って、まだ熱いそれに齧り付く。
男の方は、イチゴジャムを塗ってから齧る。

サクサクのクロワッサンは、見た目のみならず味も売り物級だ。鼻から抜けていくバターの香りがたまらない。
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