夜空に見るは灰色の瞳
それでも一応男は、“上級者に向けたパン作り教本”と題名の付いたやたら分厚い図鑑のような本を引き抜いて、パラパラと捲る。

隣からチラッと覗き込んでみると、作り方のところは何が何やらさっぱりだったが、最後に完成品として載っている写真の中のパンは、とても美味しそうだった。


「見ているとお腹が空いてきま――」

そう言って本を閉じた男は、背表紙を見て固まる。


「どうかした?」


一点を見つめて固まる男。その視線の先を追いかけて、納得した。


「まあ、これだけ分厚くてカラー写真がいっぱい付いてたらね。そりゃそうなるよね」

「……食欲が一気に減退しました」


男は、元あった場所にそっと本を戻す。
取り出した時より丁寧に扱っているように見えるのは、値段を見た後だからだろうか。


「本がダメなら、雑貨とかアクセサリーもあるけど」

「アクセサリーなんて、祖母との結婚指輪以外は着けているのを見たことがないですね。時計すらしませんから」


アクセサリーがダメとなるとあとは雑貨だが、女性が喜びそうな物ならたくさん置いてあるけれど、高齢の男性が喜びそうな物となると難しい。
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