夜空に見るは灰色の瞳
「幸せが逃げちゃいますよー、叶井さん」

「……わかってる。……わかってるんだけど、ちょっと今日は色々あり過ぎて……」


もう一つため息を零したら、ロッカーの中に置いた鏡を見ながら化粧を直していた三永ちゃんが、手を止めてこちらを向いた。


「色々って?寝坊してバスを乗り過ごしたので代わりに電車に乗ろうと駅に行ったら財布を忘れて、スマホも一緒に忘れてしまったので遅刻の連絡が出来ず、出社したらそのことについて主任にお説教を食らった以外にも、何かあったんですか?」


一瞬早口言葉か何かかと思った。
要所要所で息は吸っているものの、よくもまあそんなにスラスラと、そして淡々と私の一日の流れを説明出来るものだ。
おそらく、私には無理だ。絶対に途中で噛むか、詰まる。

実際、主任に説明する時だって何度か噛んだし詰まった。
まあそれは、主任の顔が怖すぎたせいも多分にあるとは思うけれど。


「いや、……うん、まあ。……ああ、やっぱり何も」

「どっちですか?」


あったと言えばあった。かなり重大事件と呼んでもいいことが。

でも、言ったところで信じてもらえるとも思えないし、何なら頭がおかしくなったと思われるかもしれないから、言えない。
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