夜空に見るは灰色の瞳
9 玉子焼きは甘めで
「ありがとう、大路くん。助かったよ」

「どういたしまして。バスに置いて行かれる叶井の姿は、かなり面白かった」

「……私のお礼を今すぐ返して」


仕事終わり、運悪くあとちょっとのところで間に合わずにバスを乗り過ごした私の前に、救世主のごとく現れた大路くん。

何でも、店で使う材料を買い出した帰りらしく、後部座席にはパンパンになった袋が一つと、肉屋で受け取って来たという段ボールが一つ積んであった。

そのため私は、現在助手席に座っている。大路くんのファンに見られたら、恐ろしいことが起こりそうだ。


「この時間に帰るってことは、今日は主任に掴まらなかったのか?」

「まあね。と言うか、今日は主任お休みだったから。体調不良だって」

「……お休み?あの人がか?」


大路くんが驚くのも無理はない。私だって、朝一でそれを聞いた時は驚いた。


「まあ、主任も人間だったってことだよ。近頃、暖かいと思ったら急に寒くなったり、日があるうちと落ちてからの温度差が激しかったりしたから、それでやられたんじゃない?」

「……あの人がか?」


大路くんは、どうにも納得いかないようだ。まあ、気持ちはわからないでもない。
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