夜空に見るは灰色の瞳
「まあ、そうなるか。でも、気が変わったらいつでも言えよ。いくらでも練習に付き合ってやるから」

「どうせあれでしょ、練習に付き合う代わりに、お店にお金を落とせって言うんでしょ。ほんと大路くんって抜け目ないよね。て言うか、お店始めてからがめつくなったんじゃないの?」

「まあ、多少はがめつくもなったかもな。……でも、そんなことは関係なく、叶井のためなら練習だって何だって付き合ってやるよ。いつだって」


からかうつもりで言ったのに、大路くんからは予想外に真面目な答えが返ってくる。
表情まで真面目なので、何だか車内の空気が緊張してきて、私はそれを振り払うように「それはどうも」と笑って返した。

けれど大路くんは、それに笑顔を返してはくれなかった。
いつものように軽口を叩くでもなく、真面目な顔のままで前を見据えている。

それからしばらく、車内は静かだった。

大路くんは音楽もかけなければラジオを聴くこともないので、走行音と、アクセルとブレーキを踏みかえる時の微かな音くらいしか聞こえてこない。

それが妙に気まずくて、いつもは気にならない静けさがやけに気になって落ち着かなくなってきたところで、大路くんはようやく口を開いた。


「……あのさ、叶井。ずっと、訊きたかったことがあるんだけど……いいか?」
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