夜空に見るは灰色の瞳
どうしたものかと男を見れば、その灰色の瞳は私ではなく大路くんの方を向いていた。

私の視線に気付いていないのか、しばらくジッと大路くんを見つめていた男は、ようやく私の方を見ると、ススッと身を寄せてくる。


「……あの、叶井さん。どうやら大路くん、僕が鏡から出てくるところを目撃して衝撃を受けているわけではないようです」

「……はい?どういうこと。だって、見られたんでしょ?」


男は、難しい顔で首を傾げる。


「……そう思ったんですけど、ひょっとしたら出ている途中ではなく、出てき終わって洗面台をまたごうとしている瞬間を見られたんでしょうか?」

「……私に訊かれても」


おそらくこの男、洗面台をまたぐのに忙しくて、大路くんがどの段階から自分を見ていたのか正確に把握していないのだろう。
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