夜空に見るは灰色の瞳
「変な遠慮とかしなくていいから、これからも今まで通り店に来いよ。叶井は酒を飲まないからほとんど売り上げには繋がらないが、まあないよりはいいからな」


なんて言い草だとは思ったが、大路くんが友達だと言ってくれたことが嬉しくて、これまでのように気安く接してくれたのが嬉しくて、「何それ」と返しながらも、顔は笑ってしまっていた。


「……じゃあ俺、そろそろ帰るわ」


私から視線を外すみたいにして立ち上がった大路くんは、そのままこちらを見ずに玄関に向かう。
慌てて立ち上がって追いかけると、靴を履き終えて今にも出ていこうとしている背中に声をかける。


「大路くん!……あの、またね。また、そのうち」


私の声に足を止めた大路くんは、振り返ると、私ではなく私の背後を見遣った。
その視線を追いかけるように後ろを窺うと、そこには私達を追いかけてきたらしい男が立っている。


「……ああ、またな」


聞こえた声に視線を前に戻した時には、もう大路くんは私に背中を向けていた。




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