夜空に見るは灰色の瞳

「……あんまり甘いと、ご飯に合わなくない？」

「じゃあ、前みたくパンに合わせたらどうですか？あっ、祖父に頼みましょうか！焼き立てとはいきませんが、きっと今日焼いた分が残っていると思いますよ。あの人、今は一人暮らしだって言うのに、作るのが楽しいからって作り過ぎるんですよ」


そう言って、早速男は立ち上がる。
おそらく洗面所に向かおうとしているのだろう、足取り軽く部屋を出たところで、なぜかピタッと足を止め、くるっとこちらを振り返った。


「叶井さん、お願いがあるんですけど、一旦家に帰って事情を説明してパンを貰って帰ってくるのは中々の手間なので、叶井さんのお宅の洗面所の鏡を祖父の家と繋いでもいいですか？」


しばし固まる。
けれど、答えは自分でも驚くほどすんなりと出た。


「しょうがないな。今日だけだからね」


男の表情が喜びにぱあっと華やぎ、「ありがとうございます！」とのお礼を残して早速洗面所に向かう。
その姿が見えなくなったところで、私は玉子焼きの支度を始めた。