夜空に見るは灰色の瞳
「とにかく、僕は魔法使いなんですから、合鍵なんて必要ありませんし、もしかしたら疑っているかもしれないピッキングだってしていません。する必要性がありませんから」


そういえばこの男は、今朝も魔法使いを名乗っていたか。

大変信じ難いことだが、私は昨夜男の証言を裏付けるような光景を目の当たりにしているので、頭ごなしに否定も出来ない。
だからってすぐに信じられるほど、私の脳はメルヘン仕様ではないけれど。


「……でも、今朝は確か、色々制約があるとかなんとかで、魔法使いといえどもそんなに簡単に魔法は使えないって言ってませんでした?」

「なんだ、僕の話、ちゃんと覚えていてくれたんですか。帰ってきた時の反応からして、てっきり忘れているのかと」


たとえ覚えていたとしたって、誰も居ないはずの家に人が居たら驚くだろう。当たり前の反応だ。


「確かに簡単に魔法は使えません。使えないと言うか、見られたらいけないので出来るだけ使うな、が正しいのですけどね。だから僕は、細心の注意を払って周りに誰も人が居ない時に素早く開錠して中に入りました。そして、後から帰ってくる叶井さんがまた鍵を閉め忘れたと勘違いしないよう、ちゃんと施錠しておきました」

「…………」


“細心の注意を払って周りに誰も人が居ない時”って、私は今空き巣と対面しているのだろうか。
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