夜空に見るは灰色の瞳
「あるんじゃないですか」


大路が取り出して見せたのはワインのボトル。それは、先ほど三永がオーダーし、うちには置いていないと言われた物でもある。


「普段は置いてないよ。今日はたまたまあったの。遅くなったけど開店祝いだって、顔見知りのお客さんがくれたんだよ。だから、三永ちゃんは運がいい」


そう言ってグラスを二つ取り出した大路は「よかったら、付き合ってくれない?」と問いかける。
答える代わりに、三永は浮かせていた腰を元の位置に戻した。


「現実の恋って、ままならないものですよね。漫画みたいに、何があっても最後はハッピーエンドだったら最高なのに」


トクトクと注がれる赤紫を見つめながら、三永が呟く。それに大路は、フッと笑みを零した。


「誰かにとってのハッピーエンドは、別の誰かにとってはバッドエンドだったりするだろ?そういうことだよ。漫画だって、そういう目で見れば、幸せの裏には必ず不幸がある。登場人物みんながみんなハッピーなんて、そんなのあり得ないってことだよ」

「……わかりますけど、わかりたくはないです」


拗ねたような表情でそう呟く三永に、大路は笑ってグラスを差し出した。
何となくだが、叶井がこの後輩を可愛がる理由が、わかるような気がした。
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