夜空に見るは灰色の瞳
「三永ちゃんさ、これからもそうやって素のままでいた方がいいんじゃない?そしたら、その素がいいって言ってくれる人が絶対現れるよ」

「その言葉、そっくりそのままお返ししてもいいですか?素を出すってことがどれほど難しいことか、大路さんならわかるでしょ」


そう言われると、大路には返す言葉がない。
確かに、飾らない素のままの自分でいるというのは、言うほど簡単なことではない。


「よくわかるし、俺には到底無理だけど、何となく三永ちゃんなら、やってやれないことはない気がしたからさ」

「買い被り過ぎです」


そう言ってグラスを口元に寄せた三永は、思い出したようにグラスを離して大路を見る。


「忘れるところでした。乾杯をまだしていません」


三永がグラスを持った手を伸ばしたので、大路もそれに倣って腕を伸ばす。


「ところで、何に乾杯したらいいの?」


大路の問いに、視線を落としてしばらく考え込んだ三永は


「特に何も思いつきませんが、まあこういうのノリですよ、ノリ!理由なんて、何だっていいんです」


そう宣言して「かんぱーい」と、大路のグラスに自らのグラスを軽く当てた。
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