夜空に見るは灰色の瞳
「あっ、おかえりなさい」
「…………」
「微妙に迷惑そうな顔をしてどうしたんですか?叶井さん」
「……いや、どうしたんですかじゃないでしょ。あとこれは、“微妙”なんじゃなく正真正銘迷惑がってる顔です。何してるんですか」
帰り着いたアパートの二階、私の部屋の前に、例の男が居た。
人待ち顔で立っていて、私を見るなり笑顔を浮かべる灰色の瞳の男。
喪服ほど重たくはないけれど、それでも夜道では絶対に会いたくない、暗がりに溶け込んでしまいそうな全身黒っぽい色で纏めた格好をしている。
以前部屋に上がり込んだ時にチラッと見たところ、靴下まで同じような色味で揃えていた。
そしてそんな男が浮かべているのはもちろん、人好きがするように見せかけて実は胡散臭いあの笑顔である。
「何って、叶井さんを待っていたに決まっているじゃないですか。勝手に入ると、また不法侵入だって言われてしまいますから」
「あーそうですか。で、今度は何の用ですか」
「何の用って、それも決まっているじゃないですか」
「…………」
「あれ、覚えていませんか?僕は叶井さんせんよ――」
「覚えてます!覚えてますから、言わなくて結構です」