夜空に見るは灰色の瞳
安易に男が口走りそうになった台詞を、慌てて遮る。

こんな所で “魔法使い”なんて単語を口にして、誰かに聞かれたらどうするつもりなのだ。
この男のことなどどうでもいいが、私が被害を受けるのはごめんだ。


「その言い方はあまりに薄情ですよ、叶井さん。でもそういうことなら、話の続きは中でしましょうか」


男がドアを指差す。笑顔で指差す。


「……なにふざけたこと言ってるんですか。入れませんよ。入れるわけないでしょ。帰ってください。ていうか、何かして欲しいことはあるかって訊かれた時、私答えましたよね」

「“出ていってもらってもいいですか。それで、もう来ないでください”でしたっけ?」

「……覚えてるんじゃない」


てっきり、何か言いましたっけ?とでもしらばっくれる気かと思ったのに。


「もちろんですよ。だからその後、僕はすぐに帰りましたよね。それで、その日はもう叶井さんの所に行きませんでした」

「…………」


“もう来ないでください”は、そういう意味ではない。普通に考えてわかるだろう。


「とりあえず、中でゆっくりお話しませんか?あっ、よければ僕が開けましょうか」


いいわけがないだろう。
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