夜空に見るは灰色の瞳
「ちょっ!もしかして、連れてくる気じゃないですよね!?ここペット禁止なんですけど!」

「叶井さん、湯船に水って入っていますか?」

「え、……水?」


しかし男は、慌てる私に構うことなく部屋を出ると、廊下に立って足を止め、右と左のドアを交互に見てから、右側のドアを開けて中に入っていく。


「ちょっと、何でお風呂の場所知ってるんですか!」


脱衣所の奥、浴室へと続くすりガラスのドアを、男は何の躊躇もなく開け放つ。


「湯船がちょっと小さい気もしますが、まあ許容範囲ですね」


ひとの家の湯船に向かって失礼な感想を漏らしながら、そこにかけてある蓋をめくって中を確かめた男は、そこで残念そうな声を漏らした。


「空っぽですね……。蓋が閉めてあったのでもしかしてと期待したのですが」


元の通りに蓋を閉めて振り返った男は、私を見ているようで私ではないどこかを見ながら、何かを考えている。

その隙に私は男の背後に回って、開けっ放しの浴室のドアを閉めた。
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