夜空に見るは灰色の瞳
「さて、水が溜まったら次は僕の出番です」
洗面台には七分目くらいまで水が溜まっていて、それを前に男は、気合いを入れるように袖を捲り上げる。
「……何をする気ですか」
もう一度同じ問いを投げかけたところで、今度は得意げな笑みが返ってくる。
「僕は魔法使いですからね。もちろん、魔法を使うんですよ」
そう言って男は洗面台に、水面すれすれに両手をかざすと、その格好で目を瞑り、まずは深呼吸した。
薄く開かれた口から、私にはちっとも理解出来ない外国の言葉が、外国の言葉であるのかどうかすら怪しいような、とにかく今まで聞いたことのない言葉が、囁くくらいの声量で零れる。
しばらくすると、雰囲気に呑まれるように黙り込んでいた私の目の前で、不意に洗面台に溜まった水が揺らいだ。
まるで水面を風が渡っていくように、でも実際は風もないのに揺らぎ始めたかと思ったら、唐突に真ん中から波紋が広がって、揺れは収まる。
驚きに目を見開いてその光景を眺めていた私は、揺らぎが収まったと同時にそこに映ったものに、今度は息を呑んだ。