夜空に見るは灰色の瞳
「叶井さん、ウサギとモルモットだったらどっちがいいですか?」

「え?あ、えっと……う、うさぎ?」

「ウサギですね。……あっ、この子とか大人しそうでいいですね」


男が手を突っ込んでもちっとも揺らがない水面には、手足をしまい込んだ状態で土管の中に座っている黒いウサギが映っていた。

もひもひと動かしている鼻先と口元が白くて、あとは真っ黒のそのウサギを見ていると――


「叶井さん、いきますよ」

「は?行くってどこに……わっ!!?」


突如そのウサギが、目の前に現れた。水から出てきた男の手に、抱えられていた。


「ちょっ!!はあ!?何して……!」

「流石はふれあいコーナーのウサギ、触れ合われることに慣れていますね。この子は特に大人しいみたいですが。どうぞ、叶井さん」

「ど、どうぞって……どうすればいいの!?」

「抱っこすればいいのでは?動物園のふれあいコーナーとか、行ったことないですか?」

「小学校の遠足で一度だけね!そんなの何年前の話だと思ってるのよ」


それにここは動物園のふれあいコーナーではない。ペット禁止のアパートの一室だ。しかも洗面台の前。
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