夜空に見るは灰色の瞳
職場の最寄り駅までは幾らかかるかを券売機上の看板で確認しながら、鞄の中に手を入れる。

しかしここで、更なる不運が私を襲った。


「……えっ、嘘でしょ」


どんなに鞄をあさっても、鞄の中身をぶちまける勢いで中を探しても、財布が一向に見付からないのだ。

いつの間にか後ろに並んでいた学生さんからの訝しげな、そして若干迷惑そうな視線に耐えかねて、すみませんと頭を下げながら先を譲る。

それから改めて鞄の中を探してみるが、やはり財布はない。
財布がなければ切符は買えないし、切符が買えなければ電車には乗れない。

十分後にやって来る電車に乗れなければ遅刻は確定。だが十分で家から駅までの往復なんて到底無理だ。

しばし呆然として、それから深々とため息をついて、潔く職場に遅刻の電話をかけるため、上着のポケットに手を入れる。
しばらく中を探って今度は反対側へ。
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