夜空に見るは灰色の瞳
「叶井さん、大丈夫ですか?顔がとんでもないことになっていますよ。不安だったら、そのままゆっくり座ってください」


最早、“顔がとんでもない”に対して突っ込んでいる余裕もない。
言われた通り、ゆっくりとその場に座り込む。というか、へたり込む。

正座した膝の上にウサギが乗ると、落とす心配がなくなったので心底ホッとした。

水から出てきたはずなのにちっとも濡れていないその体にそっと手を乗せて、頭の方からお尻にかけて、おっかなびっくり撫でてみる。


「……も、もふもふ……あったかい……本物だ……」


ウサギとは、こんなにモフモフした生き物だっただろうか。特にお尻の辺りが、とても気持ちいい。
夢中になって撫でていると、不意にウサギが顔を上げた。

何かを訴えられているような気がするが、生憎と私にはわからないので、隣に立つ男を見上げる。
すると、言わずとも察してくれた男は


「顔の方を撫でて欲しいそうです。鼻の辺り、そこが好きだと言っています」


そう、教えてくれた。だから今度は、鼻筋をなぞるように撫でる。
するとウサギは、気持ち良さそうに目を細め、膝の上でペッタリと姿勢を低くした。
先ほどまでピンっと立っていた耳も、両方とも体にピタリとくっついている。
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