夜空に見るは灰色の瞳
「……今更ながら、逃げたのは逆にまずかった気がする」


冷静になって考えてみれば、その行為自体が、三永ちゃんの推理は当たっていると言っているようなものではないか。だからこそ三永ちゃんも、しつこく追いかけてきたのだろう。
まあ、今日のところはとりあえず、諦めてくれたみたいだけれど。

次に会う時が怖いな……と思いながら、止めていた足をバス停の方に向かって動かす。
しかし数歩進んだところで、ふと思い立って足を止めた。

先ほど女子トイレで三永ちゃんが男性社員の名前を列挙していた時、少し前までなら一番に名前が挙がっただろう人物のことを不意に思い出したのだ。

ここ最近バタバタしていて顔を見ていなかったので、久しぶりに顔を見がてら寄り道して帰るのもありだろう。

三永ちゃんとのやり取りと全力の逃亡で気力も体力も消耗したので、明日のためにも癒しを得たい思いもある。

そうと決めたところで止めていた足を動かすと、バスを待つ列に並んだ。
目的地に向かうのに、乗り込むバスはいつもと同じだが、降車する停留所はいつもより二つ先になる。






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