夜空に見るは灰色の瞳
「それで、ご機嫌な理由は何なんだ?遂に出世したか?」


訊かなくていいし話さないと言ったのに、その話題に戻るのは何なんだ。
まあ三永ちゃんと違って、男だと決めてかかってこないだけマシだけれど。


「してないし、する予定もない」


自分からは悔しいので絶対に言わないが、私は大路くんのように仕事が出来るタイプの人間ではない。そこそこのことが、そこそこに出来るだけの人間だ。
そのため、気が利かないだのなんだのと、主任からよくお小言を食らっている。

そんな私が、出世なんてするわけがないだろう。むしろ、同期の中で一番縁遠い位置にいる自覚がある。


「なら……あっ、遂に主任がいなくなったか?ようやくの寿退社?」

「ぜーんぜん。つい最近までピリピリしてたから、また婚活に失敗したんじゃないかってもっぱらの噂」


魔法使いを目撃することになってしまったあの日に至るまで、やたらと残業が多くて大路くんの店に来る暇もなかったのは、主任がピリピリしていたせいもある。

ピリついた主任は、いつにも増して人使いが荒い。
まだ仕事が片付いていないのに呼び付けられてまた新しい仕事を言い付けられるので、減るどころか溜まっていく一方なのだ。

それもここ最近はようやく落ち着いたので、有難くも定時で帰れるまでになったけれど。
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