夜空に見るは灰色の瞳
ほろ酔い気味のお客さんに「彼女さん?」と訊かれた大路くんが、「これが残念ながら違うんですよ」と答えるのを聞くともなしに聞きながら、もう一口出汁巻きを口に運ぶ。

もぐもぐと噛みしめ、飲み込んだところで梅酒を一口飲んだら、大路くんが戻ってきた。


「何でこうさ、みんなして計ったように同じ日に万札出してくるんだろうな……」


戻ってくるなり、そんな呟き。いや、嘆きだろうか。


「給料日が、みんな大体同じ日だからじゃないの?あとボーナスとかも」

「まあ、そうなんだけど。それにしたってあんまりだろ、みんな金持ち過ぎかよ」

「自分だってちょっと前までそっち側だったくせに」

「……それもそうなんだけど。俺は、釣銭を渡す側になって初めて気が付いた。万札は脅威だ。今まで、軽い気持ちで千円満たない会計に万札出してたことを店の人に謝りたい」

「せっかくだから謝って来たら?」


大路くんはチラッと私を見てから、わかってないと言わんばかりにため息をつき、それから思い出したようにハッとしてまた私を見た。


「叶井、お前はそんなことするやつじゃないよな。俺は信じてるからな!」

「……大げさ。ていうか、うちは給料日まだでしょ。忘れたの?」


どうやら、余程お釣りがピンチであるらしい。顔がかなり切実だ。
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