夜空に見るは灰色の瞳
――誰かが居る。

そりゃあこのアパートに住んでいるのは私一人ではないので、誰かが廊下に立っていたところで不思議はないのだが、その人物は明らかに私の部屋の前に立っていた。

足音に気が付いて、ドアの方を向いていた顔がこちらを向く。

ハッキリとは言えないが、どこか異国の血が混じっているような、そう……ヨーロッパ辺りの西洋の血が混じっているような、とにかく生粋の日本人ではないような顔立ちの男性。
上も下も靴も含めて、全体的に黒っぽい色味の服に身を包むその顔に、見覚えはない。


「あの……」


おそらく部屋を間違えているのだろう。表札の出ていない同じ造りのドアが並んでいるので、それも仕方がない。

実際、お隣を尋ねるはずだった人が、間違えて私の家のインターホンを鳴らしたことも過去にある。

それとも、新しく入居して来た人だろうか。
平日の真っ昼間に引っ越しのご挨拶に来るのはいかがなものかと思うが、何にしろ声をかけながら数歩近付いたところで、また足が止まった。
< 8 / 263 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop